この記事ではインドネシアで一般的な最終廃棄物処理場、通称TPST(Tempat Pengolah Sampah Terpadu=統合型ゴミ処理場)を紹介します。人口大国のインドネシアが抱えるゴミ問題について知っていただけると幸いです。
はじめに
今回紹介するのはインドネシアの統合型ゴミ処理場です。周辺地域から回収されてきたゴミが集まる最終地点であり、実際に目の当たりにするとインドネシアが抱えるゴミ問題を象徴するかのような光景が広がります。他の東南アジア諸国でも採用されている処理方法とのことですが、ゴミ処理の技術水準だけでなく、人々のゴミに対する意識も日本とは全く異なるものだと思い知らされます。この記事を通して、インドネシアをはじめとする途上国のゴミ問題に関心を持っていただけたらと思います。
ゴミ処理の実際
早速ですが、TPSTの様子を写真でご覧いただきましょう!
いかがでしょうか?まるで漫画に描かれるような風景がそこにあります。
1枚目は入口となるゲートをくぐってすぐに見えてくるゴミ山の光景です。ゲートの前にはすでにたくさんのゴミが散見されるのですが、ゲートをすぎるとその比ではない大量のゴミがあたり一面に広がっているのです。2枚目は集められたゴミをショベルカーで整理している様子です。積み上げられたゴミの上に乗っているのは工事などで普通に使われているショベルカーです。3階建てのビル以上の高さがありそうです。
ジャカルタにおける廃棄物の現状
処分方法
インドネシアを含め、東南アジア諸国ではゴミの処分方法は「埋め立て」を採用しているのが一般的です。タイやマレーシアでも同様の光景が見られる場所はあろうかと思います。望ましいのは分別をし、分別されたゴミに応じて適切な処理を行うことです。しかし、そのための設備を整えるには膨大な費用を投じる必要があります。途上国として、また人口大国として国が投資するのは経済政策であり、ゴミ処理というのは後回しになってしまうというのが現状です。
インドネシアでもゴミの分別は励行されているとはいえ、最終廃棄地点では次の写真に見られるようにプラスチックごみも燃えるゴミも一緒に捨てられていることが分かります。これを見ると、現地の人も「分別しても意味ないでしょ!」と言って分別に積極的になれないのも頷けます。設備への投資は喫緊の課題でしょう。
廃棄物量の現状
インドネシアの人口は2億人を超えて、3億人に迫っています。そう遠くない将来に、3億という数字も超えてしまうでしょう。そのうち、ジャカルタの人口は、約1000万人(2020)となっていて、近郊を含めた都市圏人口は3000万人を超えています。これだけ巨大な都市ですので、人々の生活に伴って生じる廃棄物の量も相当なものです。ジャカルタ特別州で1日に生じるゴミの量は7,500トンで、トラック1200台分と言われていますが、その毎日生じるゴミの行き着く先はこのTPSTとなります。そしてなんと、TPSTはジャカルタ特別州内にはほとんどありません。つまり、ジャカルタ特別州で生じたゴミは他の地域へ運び込まれ、写真のようなゴミ山を形成しているのです。
ゴミ山の影響
周辺地域の生活環境
友人に案内される形で今回のTPST訪問が実現しました。もともとゴミ処理施設には一度行かなければと思っていたので、以前から連れて行けと頼んでいたのです。場所が場所なので立ち入る際には事前に許可も必要とのこと。そして当日、車を使って現地に向かうのですが、TPSTに近づくにつれて少しずつ異変に気づきます。それは何か、、、、異臭です。でも、辺りには全く聞いていたゴミ処理場などは見えません。友達に確認すると「もう少し先だよ」というのです。
後で確認をしましたが、私が異臭に気づいた地点(★印)はゴミ処理場(枠線内)から直線距離で500mほどはありました。地図を見てもらってもわかるのですが、異臭がしたエリアには多くの住宅地が広がっています。周辺住民はこのゴミ山から生じる異臭の中で生活しているのです。日本で言えばゴミ収集車が家の隣に常駐している感覚でしょうか。少し極端かもしれませんが、思いのほか臭いが強かった記憶があります。
図中には縮尺も記されています(PCで参照いただくと分かりやすい)ので、ゴミ処理場の広さもお分かりいただけるでしょう。大きな方でおよそ150X150mで、面積は22,500㎡。サッカーコート3面分に当たる数字です。
将来への負債
ゴミの処理施設がない状況ではゴミを埋め立てるしかないというのはやむ負えないでしょう。日本は世界トップレベルのプラスチックごみを排出している現状に加え、かつて公害を発生させた国として途上国を責めたり、上から目線で問題を提起するのはお門違いと言えます。しかし、このゴミ山を目の当たりにした時、この国の将来を心配せずにはいられません。埋め立て処理なので、今後このゴミ山は人々が生活する土壌となる可能性があります。また、少し西側(地図の左)には川があります。この川はチサダネ川と言って「世界で最も汚れている川」として知られている川の1つでもあります。日本ほど局地的な大雨が降る場所ではありませんが、定期的にスコールも降る場所なので、廃棄物の流出も危惧されます。考えれば考えるほど「何らかの問題が生じるのではないか」という不安は拭いきれないし、環境への負担も大きいことでしょう。結局、問題を先送りにしているということですので、大人たちは子どもたちに問題を押し付けているという感覚をいっそう持つべきなのだと思います。
実際に起きている問題も紹介しておきましょう。それは「廃棄物の整理中に命を失う方々がいる」という事実です。他の地域でも何らかの原因で発火し、火災が起きるといったことのほか、ゴミが崩れて人が下敷きになることで亡くなる方もおられます。日本のニュースで取り上げられることはほとんどありませんが、それが事実です。私が現地を訪問した際にも子どもが遊んでいたり、ゴミ山のすぐ近くで分別作業をする方々がおられました。危険と隣り合わせの作業が行われていて、それに我々の生活が支えられているという感覚も大切かもしれません。
おわりに
今回はインドネシアの首都ジャカルタ特別州のゴミ処理施設について紹介してきました。いかがだったでしょうか?
全く知らなかった人にはかなりの衝撃だったのではないかと思います。しかし、付近にある処理場のほんの1つに過ぎません。これよりも大きな処理場があるのです。インドネシアが国をあげて取り組むべきことはたくさんあるし、それに取り掛かるまでにどれだけの時間を要するかは予測ができません。もしかすると何か問題が生じて初めてアクションがとられるのかもしれません。
ただ、現状としては子どもたちへの啓発が教育現場でなされているので、その点に限っては明るいニュースです。子どもたちに負債を負わせている現状で、解決までも子どもに任せて良いものかとは思いますが、少しずつこの国の行動も変わっていくことでしょう。私はそのお手伝いをしているという感覚で、環境教育に尽力して行かなければと思う次第です。